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Interview

杉田茂樹氏(JPCOAR運営委員会委員長)インタビュー 第1話

ずっと応援してた地下アイドルがメジャーデビューしちゃったような感じ

杉田 茂樹 / 野中 雄司

23/10/23

京都大学 / 富山大学

杉田茂樹=JPCOAR運営委員長と野中雄司=JPCOAR広報・普及作業部会主査 のインタビューシリーズ(全3話)。第1話は、リポジトリ草創期からこれまでの歴史を振り返ります。



ILLという病


N|今年度から広報・普及作業部会の主査になりました野中です。就任当初から、ウェブマガジンの立ち上げという、結構大きい仕事に関わることになったんですけど、ちょうど委員長も交代するタイミングでもありましたので、杉田委員長にインタビューさせていただこうと。とはいえ、杉田さんとは旧知の間柄なので、なんか小っ恥ずかしいです…。


S|そうだよね。委員長として特別扱いされるのは恐縮なので、インタビューシリーズのひとつぐらいの扱いでお願いします(笑)。

N|杉田さんとは機関リポジトリの草創期に、北海道大学で一緒に仕事をさせていただきました。あの頃に比べると、オープンアクセスもずいぶん進展しましたよね。当時は国が関与してくれるなんて思ってもみなかった。


S| 思ってもいなかったよね。政府の文書にオープンアクセスという言葉が出てくる。こんな日が来るとは思わんかったね。

N|初期の頃って、オープンアクセスという言葉を広めるためだけの説明会とかやってましたもんね。

S|ほんとだよね。オープンアクセスって言ったらさ、床にLANケーブル這わせる話しかなかったよね当時は。われわれの係はシステム管理係だったからね。


N| “シス管” でしたね。それに比べると、近年はオープンアクセスやオープンサイエンスが国を巻き込みながら大きなうねりをもって進展している、ある意味時代の転換期にもあるのかなと思います。そのような中で、今JPCOARでも、たとえばオープンアクセス推進検討タスクフォースで色々やろうとしているし、ウェブマガジンも刊行したということで、会員館の方々や世の中に向かって、委員長から「こういうこと考えてるよ」ということを発信してもらいたいと思ったんです。でも、そんなこと言うと硬くなっちゃいますよね(笑)。



杉田茂樹氏

S| そうだね。僕は質問されると硬い返事しかできないから。


N| いやいや、それは誰も頷かないのでは(笑)。僕は、杉田さんはつくづく文系(文学部)の人だなと思っているんです。言葉の魔術師みたいなところがあると思っています。一番印象に残っているのは「ILLという病」という言葉を使われた(※)ことがありますよね。


※ 杉田 茂樹, 学術情報流通の逆転, 大学図書館研究, 2016, 103 巻, p. 1-8, 公開日 2017/09/29, Online ISSN 2186-103X, Print ISSN 0386-0507, https://doi.org/10.20722/jcul.1428

S|ああ、はいはい、懐かしい。


N|ILLって、大学図書館業界の人の目には「Inter Library Loan (図書館間相互貸借)」にしか映らないわけですが、ill=病気と言う意味を忘れてしまうくらいILLが自明のサービスになっている。その状況をある意味ユーモラスに、やや挑発的に表現した言葉だったと思います。

S|まあただのダジャレみたいなものですけど。でも確かに挑発的だよね、ILLを病なんていうのは。でもね、実際「病気」だと思うんですよ。ILLと言うのは、図書館が文献を行き渡らせることができないがためにやってることだから。機関リポジトリもそうなんです。文献が行き渡らないから、行き渡らないところまで届けようとしている。


図書館って、利用者のためにあるんじゃなくて、科学の進歩のためにあるんじゃないか


N|なるほど。さっき「転換期」であると言いましたけど、こういう時代って、やはり言葉の力が必要だと思うんですね。あるいは物語と言ってもいいかもしれません。つまり、モチベーションの話です。


S|モチベーション。難しいね。


N|例えば、私が図書館の仕事をしているのはなぜかと言うと、知識を入手することができないという状況は、最終的には貧困とか戦争とかに全部つながっていくと思っているからで、つまりちょっと恥ずかしいけれど、世界平和のためにやっていると思ってるんです。 だから、ウェブマガジンのキャッチコピーを「オープンアクセスで世界を幸せにするウェブマガジン」としたのも、そういう意図があるんです。


野中雄司氏

S|うん、僕もそこは同じ考えです。我々図書館の仕事は機関リポジトリも含めて、すべて世界平和のためというか、人類の幸福のためだと思っています。ただ人類の幸福に直接貢献するんじゃなくて、科学の進歩によって人類を幸福にするのが大学の役割だと。で、その科学の進歩に役立つことをするのが図書館の仕事だと思っていて、だから図書館って、利用者のためにあるんじゃなくて、科学の進歩のためにあると、僕は思ってるんだよね。 ほら、硬くなるでしょ(笑)。


N|そういうオープンアクセスの理念というか、物語という点において、日本の我々に最初に大きな影響を与えたのは、スティーブン・ハーナッドだったと思うのですが、杉田さんもその影響はあったでしょうか。






S|影響は大きかったと思いますね。ハーナッドはオープンアクセス論者だけど、そもそも研究者だもんね。研究者はこう思ってんだと当時思いましたね。 ハーナッドが来日したとき(2004年)って、僕はNIIに居たんですよね。その頃、既に軽井沢でDSpaceとEPrintsをインストールするというプロジェクトがスタートしていたので、機関リポジトリの理念的なことはみんな少し分かってたんだけども、雑誌が高いということへの対抗として説明されることが多かった。図書館員としてもそれは理解しやすいしね。そう理解していたんだけど、研究者の生の声として「我々は科学を加速させたいんだ。そのためのオープンアクセスだ。セルフアーカイブだ」ということを言われた。それも、記事として読むのじゃなくて、目の前で熱く語っていたのが印象に残っています。


N|私は生で見たことないんですけど、そんなに熱い人なんですね。


S| ハーナッドって、なんだろう魔導師みたいな感じがあるじゃない。修道僧みたいな風貌だし。


N|確かに。


S|そういう風貌の人からそんな風に語りかけられたので、「ああそうなのかな」って思い込まされちゃった。

間違えたとは言わないけれども、これだけじゃダメだというふうに、すごい最近思うね


N|言葉の魔術師という点では、杉田さんもハーナッドに似た雰囲気がありますね。 ところで、当時はJPCOARに活動を引き継ぐ前のDRF(デジタルリポジトリ連合)の時代でしたが、その頃からすると、JPCOARもずいぶん規模が大きくなりましたよね。


S|ほんとだよ、DRFってたかだか150機関ぐらいだったよね。


N|途中まで、ほぼ顔が見えてましたよね


S|見えてたね。今、JPCOARは700を超えてる。


N|今はもう顔までは見えないですものね運営の大部分を業務委託している図書館も増えてきていると聞きます。


S|業務委託でやってたら、顔なんて見えるわけないもんね。


N|小規模な大学が機関リポジトリを“戸建て”するのは大変だからと、“集合住宅”としてのJAIRO Cloudが登場したわけですけど、機関リポジトリの草創期は、“戸建て”モデルで進みましたよね。これは、当時総合目録データベースであるNACSIS-CATに慣れていた図書館員にとって、新しいことだったと思います。


S|そうだよね。例えば、紀要のことで言えば、かつて中央(NII)に「目次速報データベース」というサービスがありました。各大学が発行する紀要の目次を各大学の図書館が入力していた。そのうち本文もアップロードするようになって、NIIに紀要が溜まっていってたんだけど、その紀要の仕事をわざわざ機関リポジトリにばらしちゃったわけです、我々が。


N|ばらした張本人の一人が杉田さんだったというわけですが、あの時ここまで機関リポジトリが普及すると考えていましたか?

S|考えてないよ、そんなの。





N|では、今の日本における機関リポジトリの状況をどう感じていますか?


S|そうだなあ。草創期の頃は、蚤の市みたいだなぁと思ってたんですね。そこここに、手作りの機関リポジトリが出てきて。その頃からすると、今の状況はなんというか、ずっと応援してた地下アイドルがメジャーデビューしちゃったような感じかな。


N|それは、杉田さんにとってうれしいことなのか、悲しいことなのか、どちらなんですか?


S|どうだろう。メジャーデビューなんかとても無理だと思ってたので。予想もしなかったから、感想も持てない感じ。


N|でもこれだけ普及したということは、ひとつの達成ではないですか。


S|機関リポジトリだけの話でいえば、そうですね。一方で、これまでグリーンと信じてやってきたけれども、グリーンでは所詮は出版社の掌の上だなというのをすごく感じるようになりましたね。頑張って頑張って大きくなってきて、国レベルでもオープンアクセスが言われるようになったけれど、結局のところ機関リポジトリは出版社の査読を経て出版社の雑誌上に発表された論文のセルフアーカイブでしかないと。 だからこれをいくらやっても、根本的にひっくり返すことはできないなぁと思って。間違えたとは言わないけれども、これだけじゃダメだというふうに、すごい最近思うね。

N|今年の国際オープンアクセスウィークのテーマは「商業化を超えたコミュニティ」ですね。


S|これさ、日本語がぬるいよ。僕が訳すとしたら「商業主義をぶっ飛ばせ」だね。


 → 第2話につづく


 


話し手:杉田 茂樹( 京都大学 )
1967年生まれ。1993年に北海道大学附属図書館入職。2005年から2009年にかけて北海道大学学術成果コレクション(HUSCAP)の設立に携わったのち流れ流れて現職。ウェブサイト:https://www.kidahami.com/post/yamoshichi_34




聞き手:野中 雄司(富山大学)
富山大学 学術推進部 学術コンテンツ課(附属図書館)。2001年北海道大学附属図書館採用、室蘭工業大学附属図書館への3年間の出向を含め16年間を北海道大学で過ごす。その後、東京大学附属図書館を経て現職。山も川も海も食べ物も素晴らしい富山を満喫中。

 

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