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Column

「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」って何?~はじめてのリポジトリ担当者の疑問~

JPCOAR広報・普及作業部会

25/2/5

とある大学図書館を舞台に、はじめてオープンアクセスに関わる後輩さんと、それなりに経験を積んできた先輩さんが、リポジトリにまつわる話をしています。今回は、まもなくはじまる「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」(国のOA基本方針)について、一緒に概要を確認してみましょう。


登場人物

後輩さん

他の図書館業務も行いつつ、リポジトリ業務も担当しはじめました。

国のOA基本方針ってなんなの?とちょっと心配しています。


先輩さん

大学図書館でのお仕事もリポジトリ担当としてもそれなりに経験を積んできました。

オープンサイエンス政策については頑張って勉強中です。

 

国のOA基本方針とは

後輩さん

最近「国のOA基本方針」って盛り上がってますけど、結局どういうことなんですか?


先輩さん

ひとことでいうと、国の研究費によってできた論文やデータはできるだけ速やかに、機関リポジトリなどでオープンにしなければならないという政策、かな。私も勉強中なんですけど。


後輩さん

機関リポジトリって言われて自分に関係あるんだってわかりました。政策ってことは、日本中が関係するのですね。


先輩さん

そうですね、皆が考えているんですよ。


後輩さん

これは何のための政策なんですか?


先輩さん


「理念」が3つに整理されていて、おおまかに、

  1. 公的資金による研究成果を公開して誰でも使えるようにすることで、科学技術の発展に貢献しよう。

  2. 大学等で利用可能な雑誌や発表する論文の数を減らさないで、購読料や論文発表など日本全体で成果を出すための経済的な負担を減らしたい。

  3. 日本の成果をもっと世界に発信する。

ということだと私は思ってます。


後輩さん

ええと、……2つめがよくわからないです。


先輩さん

特に海外学術誌、電子ジャーナルは研究のためのインフラなのに、購読料の値上がりや最近だと円安で予算確保が研究機関にとって大きな悩みですよね。電子ジャーナルは契約しないと読めないわけだし。しかも、ジャーナルに掲載された論文をオープンアクセスにするのにAPC(Article Processing Charge)がかかるっていうビジネスモデルができたから、研究機関だけじゃなくて論文を発表する研究者にも経済的な負担がかかっているんです。


後輩さん

学術情報流通っていうけど、出版というビジネスなんですね。


先輩さん

そう、研究成果の流通が学術出版社などの市場支配の下に置かれている、っていうのが背景にあるんですね。研究者はこれまでどおり研究活動ができるようにしつつ、でも日本全体で経済的な負担を減らしたいっていうのが2.かな。

今言ったことは「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針(令和6年2月16日)」に詳しく書かれているから、読んでみてください。


後輩さん

政策文書ってよくわからないんですよね……。


先輩さん

じゃあ、「日本の学術論文等の オープンアクセス政策について」っていう、この基本方針の概要を説明した内閣府の資料が公開されています。スライドに要点がまとめられてるので、文書と併せて読んでみてください。


後輩さん

わかりました。


先輩さん

私もはじめはよくわからなかったし、今もいろんな単語を検索しながら読んでます。あとは、こうだと思うけど、あってますか?って誰かに訊いてみるとか。

他機関の人に訊きたいときは、SNSやJPCOARのコミュニティに相談してみてもいいんじゃないかな。メーリングリスト、研修や情報交換の場があるので、同じ疑問を持っている方やいろんな経験・勉強をしている方に相談できると思います。


 

何を求められているのか

後輩さん

雰囲気はわかりましたけど、まだもやもやしてます。どんな論文をいつ頃リポジトリに登録するんですか?

先生から依頼がたくさんあったら滞りなく登録していけるか不安です……。


先輩さん

さっき言った基本方針と、それから

「学術論文等の即時オープンアクセスの実現に向けた基本方針」の実施にあたっての具体的方策 (令和6年2月21日/令和6年10月8日改正)」にはもう少し具体的に書かれてますよ。

 

公的資金のうち2025年度から新たに公募を行う即時オープンアクセスの対象となる競争的研究費[1]を受給する者(法人を含む)は、当該研究費による学術論文及び根拠データの学術雑誌への掲載後、即時に機関リポジトリ等の情報基盤への掲載を義務づける。

[1]対象となる競争的研究費

  • 日本学術振興会:科学研究費助成事業

  • 科学技術振興機構:戦略的創造研究推進事業(先端的カーボンニュートラル技術開発(ALCA-Next)及び情報通信科学・イノベーション基盤創出(CRONOS)を除く)

  • 日本医療研究開発機構:戦略的創造研究推進事業

  • 科学技術振興機構:創発的研究支援事業


[2]対象となる学術論文及び根拠データ

  • 学術論文:電子ジャーナルに掲載された査読済みの研究論文(著者最終稿を含む)

  • 根拠データ:掲載電子ジャーナルの執筆要領、出版規程等において、透明性や再現性確保の観点から必要とされ、公表が求められる研究データ

 

後輩さん

あれ、もしかして2025年度になったらすぐに論文を機関リポジトリに登録する義務が発生して、先生方から図書館に依頼が寄せられるというわけではないんですか?


先輩さん

はい、2025年度になった途端じゃないですよ。研究のプロセスと競争的研究費の受給までのスケジュール、両方の理由があります。

まず、研究のプロセスを思い浮かべてみましょうか。卒論書いたときとか、思い出してみて。研究者は文献調査、研究計画の策定、試・史・資料の収集、実験や分析・考察などを経て論文を執筆し、査読を受けたあとに出版可否が決まりますよね。だから研究成果が論文として出版されるまでにはそれなりの期間があります。どのくらいかは、研究分野によって違うんでしょうけれど。


後輩さん

研究をはじめてから論文が出るまではタイムラグがあるんですね。


先輩さん

次に、具体的方策では、2025年度に新規に公募する公的資金、かつ[1]で挙げられている競争的研究費の成果が対象になると書かれています。競争的研究費は一般的に、応募の後に審査を受け、交付が内定します。内定したら交付申請をして、やっと交付決定、その後受給です。使用可能な予算として個々の研究者に配賦されるまでにもプロセスがあるんです。例として科研費のスケジュールを見てみましょう。


後輩さん

公募してから交付決定まで、時間がかかるんですね。それと、研究種目によってスケジュールが違うとは知りませんでした。


先輩さん

だから2025年度に入ったらすぐ登録依頼が増えるというわけではないと考えています。ただ、論文の謝辞を見ていると複数の競争的研究費による成果だと書かれているものもありますし、研究者によっては受給してから新たな研究を始める方と、既に着手している研究内容を組み合わせて論文にする方がいらっしゃるんじゃないかなと思っています。これは想像ですが。

また、大学で生み出される全ての論文が対象でもないですよ。


後輩さん

急に学内の論文がどどーっと押し寄せてくるわけでもないんですね。


先輩さん

そうだと思います。でも、あまりのんびりせずにできることを考えておきたいです。それに、査読付き論文が対象とされているけど、それ以上の、たとえば英語論文とか日本語論文とかっていう縛りはないし、科研費は分野を問わず多くの研究者が獲得しますよね。


後輩さん

確かにそうですね。


 

リポジトリ担当者の対応

後輩さん

ところで、「国のOA基本方針」への対応って図書館が担当部署になりますか?


先輩さん

「[1]対象となる競争的研究費」を受給する研究者が所属している機関に機関リポジトリがある場合、原則はその機関リポジトリに論文と根拠データを掲載すると書かれています。だから機関リポジトリがある本学では、公開という役割を担うのは機関リポジトリを所掌している図書館になると私は思っています。その他の役割分担は全学で考えていきたいですよね。


後輩さん

あ、そうなんですか。図書館が対応する部分は大きそうですね。


先輩さん

ただし、機関リポジトリ以外の情報基盤に掲載することも認められています。


 
  • NII RDC上で学術論文及び根拠データを検索可能である分野別リポジトリ等に掲載した場合

  • NII RDC上で学術論文及び根拠データが検索できないプラットフォームに掲載した際に、資金配分機関への実績報告に学術論文及び根拠データの識別子を記載し、資金配分機関の研究課題データベース等を通じて、NII RDC上で学術論文及び根拠データを検索可能とした場合

  • Jxivや科学技術振興機構(JST)が開発するリポジトリ((仮称)GRANTS Data)に学術論文及び根拠データを掲載した場合

  • 学術出版社等の電子ジャーナル上で学術論文及び根拠データを即時オープンアクセスとした際に、資金配分機関への実績報告に学術論文及び根拠データの識別子を記載し、資金配分機関の研究課題データベース等を通じて、NII RDC上で学術論文及び根拠データを検索可能とした場合

  • その他の手段により、NII RDC上で学術論文及び根拠データを検索可能とした場合

 

この5つをすごくざっくり言うと、何らかの手段でNII RDCで検索可能にするか、JSTのプラットフォーム(Jxiv、(仮称)GRANTS Data)で検索可能にするか、ですね。いずれも研究者ご自身が対応されることになると思います。


後輩さん

NII RDCってなんですか? CiNiiと違うんでしたっけ?


先輩さん

CiNiiも含まれますよ。NII RDC(NII ResearchDataCloud)は、管理基盤(GakuNin RDM)、公開基盤(JAIRO Cloud)、検索基盤(CiNii Research)からなるデータ駆動型研究を推進する基盤です。詳しくはRCOSによる説明を見てください。


後輩さん

ということは、研究者に質問されたとき「図書館で用意している機関リポジトリだけではなく、CiNiiで検索できるようにするか、またはJSTのプラットフォームに掲載すればいいです」って言えるんですね。


先輩さん

うーん、でもこの政策の「理念」にあるような科学技術の発展や日本の成果の発信に、図書館が貢献できるんですよね。それに大学という組織で機関リポジトリを運用しているのだから、組織の成果は機関リポジトリに集約して発信したいな、と個人的には思います。

後輩さんは業務量を心配しているのかな? 本学で該当する競争的研究費を使っている方がどのくらいいらっしゃるかを調べてみると、少なくとも現在の様子は把握できるかもしれないですね。


後輩さん

そうですね。科研費を獲得されている方を「KAKEN」で検索してみます。ちょっとでも見込みを立てられたらいいですし。


先輩さん

いいですね! ちなみに「GRANTS」では科学技術振興機構(JST)による研究課題と「KAKEN」(文部科学省と日本学術振興会が交付する科研費)が統合検索できます。日本医療研究開発機構(AMED)の助成によるものは「AMEDfind」で検索できますよ。


後輩さん

そんなデータベースがあるんですね。本学の先生を検索してみます。

ほかに、知っておいた方がいいことってあるんですか?


先輩さん

政策に組織としてどう対応するのか、役割分担なんかを他の部署と一緒に考えておきたいですね。それに、私たちが疑問に思ったことは研究者からも質問として寄せられるかもしれないから、学術論文を機関リポジトリに登録するときのフローや調査すべきことを整理するのも大事です。

国のOA基本方針では研究データも登録対象になっているので、データが登録できるのか、どうやって登録するのかも考えた方がいいですね。


後輩さん

研究データって登録したことないですし、見当もつかないですね……。


先輩さん

論文に関係するデータを全て公開するのではなく、さっき読んだ「具体的方策」では、掲載電子ジャーナルの執筆要領や出版規程等で公表が求められるものが対象だと、ある程度限定して書かれていましたよね。

資料は、研究データ利活用協議会(RDUF)による「研究データへのDOI登録ガイドライン」が参考になるかもしれません。他の機関の例は、IRDBで資源タイプをdatasetなどに指定して検索すると見つかります。どんなふうに登録しているか確認して、一緒に考えていきましょう。

順番に準備すればきっと大丈夫。まずは論文の登録からですね。


※ウェブページへの最終アクセス日:2025年1月20日


 

編集後記

  • 今回は広報・普及作業部会のメンバー3人で政策とリポジトリの実務について取り上げようと企画し、2つの記事を編集しました。次いで公開予定の記事もどうぞご覧ください。(熊﨑)


 

本記事は クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 ライセンスの下に提供されています。
ただし、記事中の図表及び第三者の出典が表示されている文章は CC BY の対象外です。
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