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Report

PID、あるいは国際連携について考え始める― DataCite Connect・ORCID Global Consortia Workshop参加報告

田辺 浩介

23/12/21

物質・材料研究機構

はじめに

  2023年の3月に、スウェーデンのイェーテボリで行われた Research Data Alliance Plenary Meeting 20th(以下RDA)、ならびにその併催イベントであるDataCite Connect Gothenburg 2023ORCID Global Consortia Workshopに参加してきました。RDAは、「研究データの共有を加速し、技術・基盤・プラクティス等を実現していくコンソーシアム[1]」で、リポジトリやメタデータの話題、研究倫理や法律の話題、研究分野ごとの話題など、研究データに関わるありとあらゆることについて、世界中から担当者が集まって話し合われています。本稿では、特にそのふたつの併催イベントについての参加報告を行います。

 DataCiteやORCIDが、それぞれ研究データや研究者に対するPID(永続的識別子)の登録管理を行っている組織であるということは、このウェブマガジンをごらんのみなさまはすでにご存知のことと思います。今回、それらふたつの組織が会員限定のイベントを実施する、しかもRDA本編と違って対面参加のみ・オンライン参加なし、その上日本からDataCiteやORCIDの会員や関係者が誰も参加できないということで、片道15時間をかけて行ってきました。


 
[1] 村山泰啓. Research Data Alliance (RDA; 研究データ同盟)とは何か. 研究データとオープンサイエンスフォーラム. 2016-03-17. https://japanlinkcenter.org/top/doc/160317_03murayama.pdf


会場のLindholmen Conference Centreにて


DataCite Connect Gothenburg 2023

 DataCite Connect Gothenburg 2023は、DataCiteの会員が集まるミーティングです。DataCiteには、直接会員(DataCiteに直接会費を払って参加する)とコンソーシアム会員(コンソーシアム主催機関を経由して参加する)の制度があり、2023年3月時点では、日本ではジャパンリンクセンター(JaLC)と筆者の所属する物質・材料研究機構(NIMS)が直接会員でしたが、2023年4月からはJaLCがコンソーシアム会員になり、2023年10月時点ではJaLCのDataCiteコンソーシアムには10組織が参加しています[2]。 本ミーティングの参加者数は数えそこねたのですが、少なくとも50名は参加があったように思います。自分自身が写真をほとんど撮らなかったのが悔やまれるところですが、当日の様子はDataCiteのWebサイトに掲載されています


 
[2] DIAS、九州大学、京都大学、海洋研究開発機構、国立極地研究所、国立環境研究所、宇宙航空研究開発機構、筑波大学計算科学研究センター、産業技術総合研究所、大阪大学。なお、2023年10月時点において、JaLCのDataCiteコンソーシアムでは DataCiteが提供するWebAPIの多くを利用できないため、NIMSはJaLCのコンソーシアムに参加せず、直接会員を継続しています。


DataCite Connectで配られていたバッグ。論文とデータの関係を、DOIを使って表現する例


 参加者の自己紹介のあと、オーストラリア・チェコ・ドイツ・オランダ・中国の事例紹介の発表が行われました。DataCiteは主に研究データのDOIの登録管理を行う組織ですが、このセッションでの大きな話題は研究データのDOI自体の話ではなく、「National PID strategies(国全体での永続的識別子の戦略)をどのように作り、支えていくか」というものでした。なぜ国全体で識別子の戦略を考える必要があるのか?…発表の中で述べられていたのは、以下のようなものでした。


  • 研究成果の発見や検索を容易にするため

  • 研究助成に対する研究成果の追跡を行い、ステークホルダー(特に国民)に対する説明を行えるようにするため

  • それらの作業を、研究者をはじめ研究に携わる人たちの労力をかけずに行えるようにするため


 そしてこれらを実現するために必要なのが、DOIやORCIDをはじめとするPID、そしてその国レベルでの導入戦略というわけです。

 各国の発表ではDOIやORCIDのコンソーシアムの話ももちろん出てきましたが、特に印象的だったのが、自分の国で研究データやプロジェクトのID体系を持っている、オーストラリアのARDC中国科学院[3]の発表でした。オーストラリアにはRAiD, 中国にはCSTRというID体系があるそうで、それら自体も興味深かったのですが、いずれもDOIやORCIDとの連携に触れており、自分たちの国のために必要なIDや運用体制と、研究成果のグローバルな流通のために必要なIDを両立させるための取り組みを行っていることに、たいへん強い興味を持ちました。


 
[3] 中国科学院の人たちは、セッションの終了後もDataCiteの人たちに熱心に質問をしており、傍から見ていても相当な意気込みを感じました。


ORCID Global Consortia Workshop


 ORCID Global Consortia Workshopは、世界各国のORCIDコンソーシアムの担当者が集まるミーティングです。ORCIDもDataCite同様に直接会員とコンソーシアム会員の制度があり、ORCID日本コンソーシアムには2023年10月時点で22組織の参加があります。NIMSもコンソーシアム会員として参加しています。

 このミーティングには、世界各地から15カ国の参加がありました。各国のコンソーシアムの紹介の際、日本については「日本コンソーシアムの参加組織は20を超えたばかりですが、日本には700以上の大学があるので、もっとコンソーシアムを大きくしたいと思っています」と紹介しましたが、口に出して言うと、日本はなんだかんだで大きな国なのだなあ、という実感があります。


自分の名札。名札の情報はORCIDレコードから取ってきていないようです

 今回のミーティング、ならびに各国のコンソーシアムの発表で共通のテーマになっていたのが、「コンソーシアムやコミュニティをどのように安定的に運営し、発展させていくか」という点です。コンソーシアムの運営について興味深く思ったのが、多くの国がORCIDコンソーシアムの運営を「プロジェクト」、つまり期限を切って予算をつける形で進めているということでした。同様に、多くの発表で「ORCIDの導入による対費用効果を綿密に調査した」と触れられており、この点はあまり日本では議論を聞いたことがないように思いました[4]。日本の場合、ORCIDコンソーシアムは大学ICT推進協議会(AXIES)、DataCiteコンソーシアムはJaLCといった既存のコミュニティの枠組みを利用するもので、プロジェクトによる運営と比較して活動のスピード感には欠けるものの、運営の安定性という点では優位な体制になっているように思います。このメリットをもう少し日本の活動で活かしたいところです。


 各国の事例紹介の中では、ニュージーランドの「国の科学賞の応募にORCIDを使い、所属や業績の情報を取得できるようにしている」という事例がおもしろかったです。発表された方は「今日の発表の中でいちばん初歩的な事例だと思うんですけど」と言っていましたが、全くそんなことはありませんでした。文科省の表彰の応募もこうできないのか、あるいはせめてresearchmapのURLを書けば済むようにはできないものでしょうか。


 
[4] PIDの導入による研究者や実務担当者のコスト削減への寄与については、以下の資料でも触れられています。
宮入暢子. Persistent Identifiers: 加速度的に普及する永続的識別子と学術コミュニティにもたらす実益. figshare. 2022. https://doi.org/10.6084/m9.figshare.21723707.v1


“National PID Strategies”

 DataCite Connectでも ORCID Global Consortia Workshop でも、またRDAの本編のセッションでも、”National PID Strategies”という言葉が繰り返し出てきました。特に、DMP(Data Management Plan)管理用ツールであるDMPRoadmapの開発ワークショップでは、地域を問わず、複数の国の発表で「DMPにDOIを付与し、それをORCIDレコードに追加する」というワークフローが紹介されていました。DMPやそれに紐づく助成情報や成果を、研究者のORCIDレコードに記録して追跡できるようにする、というものです。


 正直なところ、世界中でこれほどまでに研究成果の把握と追跡が求められているということに、全く息苦しさを感じないといえば嘘になります。ただ、研究のためのお金が、結局は国(国民)から出ているということを考えると、そこに目をつぶるわけにはいきません。そもそも研究自体が競争であるということを考えると、研究活動というのは研究者どうしの競争というだけでなく、国と国の競争という側面が出てくるのだろうし、同時に自分の国だけでは対応できないほどの競争があるからこそ、国際的な協力が必要になるのだなと思います。スピード感を持って動く国のコンソーシアムの動き、それによってもたらされるPIDの流通に、日本はどのように対応していけばよいのだろうか、ということを考えずにはいられません。「日本ではDMPのIDってどうするつもりなんだっけ」「科研費のDMPってどこかで公開されるんだっけ」「researchmapとe-RadとKAKENのデータの関係ってどうなってるんだっけ」…。


国際連携の最前線を垣間見る

 最後に、私が参加したセッションの話からは外れるのですが、今回のRDAの参加でおぼろげながら見えてきたのが、オープンサイエンスにおける国際連携の現場です。日本からはNIIの山地一禎先生・谷藤幹子さん・下山武司先生、NISTEPの林和弘さんをはじめ、私のほかに7名の方が参加されていたのですが、自分の職場からは私だけの参加だったことや、NIIで用意されたRDA参加者用のSlackチャンネルの存在もあって、RDAの開催期間中、非常に密にコミュニケーションをとることができました。


 日本の学術情報基盤の企画・開発や学術政策に直接携わる人たち、まして「日本が遅れている部分が多いことは明らか」[5]という意識を持った人たちが、昼はRDAのセッション会場、夜はバーで、ほんとうにさまざまな人たちをつかまえて[6]、議論も世間話も楽しそうに、かつ熱心にされている様子を見ていて、「かっこいい仕事だなあ」…と素直に言うのは悔しいので言いませんが、「ここから始まる国と国の関係があって、政策や情報基盤の国際連携が始まって、それがどんどん流れて自分たちの仕事につながるのだなあ」という感慨がありました。


 今回の参加で自分自身の意識が少し変わった点として、以前は「外国の人と仕事するのってたいへんそう、だいたい英語できないし[7]」と思っていたのが、「これはひょっとして楽しいのかもしれない」と思うようになりました。おそらくそれは、たとえばNIIの先生方とくらべてスケールが格段に小さいながらも、世界の学術基盤に参加し、それを支えている実感を得られたからかもしれません。


 2023年12月12日に、DataCite・ORCID・JaLCによる、PIDの利活用をテーマとしたミーティングが開催されました。PIDはその目的や機能、それによってもたらされるメリットが明確な上、DOIやORCID のように世界的に利用されているPIDであっても、非常に小さなコミュニティで運用されているという、とてもおもしろい性格を持っています。各国のPIDコンソーシアムが抱えている課題も似ており[8]、それゆえに国際連携や協力のメリットも大きいのではないかと思っています。詳細が決まりましたら、JPCOARのメーリングリストなどでお知らせしますので、一度いっしょにPIDコミュニティの活動に参加してみませんか。


 
[5] 特集:山地先生に訊く「 リアルにつながる 」 国際連携のお話. JPCOAR Newsletter: CoCOAR. 2022, no.14, p4-5. https://doi.org/10.34477/0002000144
[6] 山地一禎. Research Data Alliance 20th Plenary. RCOS日誌. 2023-04-28.  https://rcos.nii.ac.jp/diary/2023/04/20230428-1/index.php
[7] 「英語ができない」ことについて、同業者の集まる場所では、語学力そのものよりも「これを話したい」という問題意識の有無のほうが影響すると思っています。
[8] 予算の確保はもちろんのこと、「ITに詳しい人がいない」「図書館・IT部門・研究管理部門の間に壁がある」「大学経営陣や政治家がなかなか必要性を理解してくれない」というのは、海外でもおおむね共通の悩みのようです。


 


文:田辺 浩介(物質・材料研究機構)

物質・材料研究機構技術開発・共用部門主幹エンジニア。機構の図書管理システム「研究者総覧SAMURAI」「Materials Data Repository」(MDR)の開発と運用に携わる。PIDの世界に関わるきっかけは、2014年11月のORCID Outreach Meetingの前に、当時の上長の谷藤さん(現NII-RCOS副センター長)から「ORCIDを使ったデモサービスを作ってほしい」と言われたこと。2023年4月よりジャパンリンクセンター(JaLC)運営委員。



 

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