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test/連載:かたつむりの気になる国際動向(1):英国では機関リポジトリによるオープンアクセスが大隆盛!それを支えた大学図書館現場の実践

1.連載のはじめに

 祝! JPCOARウェブマガジン創刊!

 

 ということで新創刊されたウェブマガジンにて国際動向を紹介する連載を受け持つことになりました、JPCOAR運営委員(国際担当)の佐藤翔です。普段は同志社大学で図書館司書課程の授業を担当する図書館情報学者であり、自称「日本で初めて機関リポジトリの研究で博士号をとった人間」として、時々中断をはさみつつ、機関リポジトリ関連の活動にも長く関わらせていただいています。2017年に終刊した「月刊DRF」でも連載を持たせていただいていたので、機関リポジトリ関連媒体での連載は6年ぶりのカムバックということに。さすがに世の顔ぶれも一新されていそう……と思ったらJPCOARの運営委員の皆さんは割と当時から馴染みの方々……。


 本連載では毎回、佐藤が日々目にした中で「これはJPCOARや、日本の機関リポジトリ界隈の皆さんに紹介した方がいいかも」という国際的なトピックを取り上げ、茶々を入れつつ紹介していきたいと思います。ちなみに「国際担当」運営委員とは何をする仕事かと言えば、機関リポジトリ・学術情報流通・オープンサイエンス等に関する重要そうな国際動向をキャッチ&紹介することだそうでして、つまりはこの連載の執筆が佐藤の本務ということに。がんばってやっていきたいと思います!


2.今回のネタ

 初回の今回は米国大学・研究図書館協会(ACRL)が刊行する学術雑誌、College & Research Librariesの2023年第3号に掲載された論文、”Carrots and Sticks: A Qualitative Study of Library Responses to the UK’s Research Excellence Framework (REF) 2021 Open Access Policy(拙訳:にんじんと棒(日本で言う「飴と鞭」):英国Research Excellence Framework (REF)のオープンアクセス方針に対する図書館の反応に関する質的研究)”を紹介していきたいと思います。著者のDan DeSanto氏は米国バーモント大学図書館の人ですが、論文中で紹介されているのは英国の事例です。英国の大学図書館が直面した国のオープンアクセス方針への対応について、米国の大学等にとっても参考になるのではという観点から、米国の大学図書館関係者がインタビュー調査を行ったという、割と珍しいタイプの論文になっています(だいたい自国の状況を取り扱うことが多いので)。日本でもいよいよ公的資金による研究へのオープンアクセス義務化が本格化するのではないかという昨今、日本の大学図書館関係者にとってもたいへん参考になりそうな内容であると考え、取り上げた次第です。


3.英国では機関リポジトリでのオープンアクセスが劇的に進んでいる!

 さて機関リポジトリとオープンアクセスというと、かつてそれこそ英国のFinch Reportで機関リポジトリじゃ駄目だ的に言われたり、Plan Sでも当初、機関リポジトリは二の次みたいな扱いだったり、近年の世論としてはオープンアクセス実現手段の第一はオープンアクセス雑誌で、機関リポジトリ等のセルフ・アーカイブは二番手扱い……という印象があったのですが、実は現在、英国の機関リポジトリとオープンアクセスを取り巻く状況はそれとは全く異なる様相を呈しているのだと言います。CWTS Leiden Rankingによると、2016~2019年出版論文のオープンアクセス率上位は軒並み、英国の大学が占めており、オープンアクセス率が9割前後という機関もごろごろしています。そのこと(英国でオープンアクセスが進んでいる)こと自体は佐藤も理解していましたが、てっきり転換契約等の影響が主たるものなんだろうと思っていました。しかしこのCWTSランキング、オープンアクセスの実現手段(オープンアクセス雑誌なのか機関リポジトリ=グリーンなのか等)を絞り込む機能がありまして、それで絞り込んでみると、なんとオープンアクセス実現手段の大部分が機関リポジトリである、という大学が数多、存在するのです。2016~2019年出版論文の機関リポジトリ登録率上位25位中、実に22機関を英国の大学が占めており、登録率50%以上の大学も16大学に及んでいます。そもそも出版される論文数の多いオックスフォード大学やケンブリッジ大学など、大手大学の登録率はさすがに落ちますが、それでも両大学とも3割以上の登録率を誇っており、機関リポジトリで公開されている雑誌掲載論文数はこの4年間でいずれも10,000論文を超えています。そしてこのオックスフォード等の大手大学ではゴールド・ハイブリッドオープンアクセスの割合の方が高い(それでも機関リポジトリでのオープンアクセスも負けず劣らず)例も多いものの、より規模の小さい大学等では、オープンアクセスの主たる実現手段は機関リポジトリである、という例も多数、存在しました。そもそも機関リポジトリでのコンテンツ公開数自体、英国は近年、軒並み大きく増加しています。かつて佐藤は日本こそ世界でもっとも機関リポジトリが成功を収めた国と豪語していましたが、現在の英国の勢いはそれどころではないことになっています。恥ずかしながら全然、気が付いていなかった……。


4.決め手はREF2021のオープンアクセス方針

 なぜ「機関リポジトリ? 灰色文献でも載せておけば?」なんて言われていた英国で、こんなにも雑誌論文の機関リポジトリ登録が進んだのか。その理由が今回紹介する論文で取り上げられている、Research Excellence Framework (REF) 2021のオープンアクセス方針です。REFについてはたまに『カレントアウェアネス』等で取り上げられますが、あまり日本の大学図書館関係者には馴染みがないかもしれません。しかし英国では大学関係者が皆、時には精神を病みかけるくらいに躍起になって取り組んでいると言われる研究評価制度です。その特徴は科研費等の研究プロジェクトを申請するタイプの研究費ではなく、より基盤的研究費に関わる評価であるという点にあります。大学等に対する研究活動への交付金を配分するにあたり、交付額の約7割が、この評価の結果に基づいて傾斜配分されるという……日本で近い感じをイメージするなら、運営費交付金の中で研究活動への交付分が決まっていて、その額がREFの評価で決まる、という感じでしょうか……そもそも基盤的研究費が削減されまくっていて競争的資金頼りの日本とはだいぶ状況も違いますが……。ともあれ、その評価によって以降数年間の基盤的研究費額が大きく左右されるわけですから、各大学にとっては死活問題になるわけです。REF2021では大学の研究環境に対する評価が15%、研究がもたらした社会的インパクトに関する事例説明の評価が25%、そして実際の研究成果の評価が60%という配点になっており、そして最後の、最も多くの割合を占める研究成果の評価にあたっては、オープンアクセスになっているものしかREF2021の評価対象とはしない(つまり評価に含めたければオープンアクセスにしなければいけない)という方針が打ち出されたのでした。より具体的に見ていくと、


・オープンアクセス方針の対象となるのは雑誌論文と会議録論文

・対象となる成果は、機関リポジトリ、複数機関等の共同リポジトリ、もしくは主題リポジトリに登録しなければいけない

・論文等が受理されてからできるだけ早期に登録することとし、受理後3カ月以内には必ず登録すること

・登録するのは著者最終版が原則。VoRの登録が認められている場合はVoRの登録でもOK(プレプリントも著者最終版に近いものであればOK)

・「他の助成機関等の」要求に従ってゴールドOAとしていたものはゴールドOAもREFの対象とする

・エンバーゴは尊重する(登録はしているがエンバーゴ期間中はアクセスできない、というのはあり)


という内容で、他に色々と例外はありますが、原則としては雑誌論文等をREF2021で評価対象としてほしければ、機関リポジトリに登録しなければいけない……それも「出版」ではなく論文の「受理」(査読の結果、採択が決定した日)から3カ月以内に!……という、かなり攻めた内容になっています。他の助成機関のオープンアクセス方針等でゴールドOAにしたものはそれでもいいよという話なので、多くの競争的資金を獲得している大手研究大学はその割合が高い分、機関リポジトリでの公開が減り、中小規模大学は機関リポジトリ中心、ということになったことが、先の機関リポジトリ登録率とゴールドOA率の差にあらわれたのかな、とかなんとか。


5.大学図書館員たちはどう対応したのか?(本題)

 ここまでの話は前置きで、ここから今回の本題(紹介する論文の話)です。機関リポジトリでの公開を義務としたオープンアクセス方針が、全国的に採用される! 機関リポジトリでのオープンアクセス推進派としてはなんと力強い後押しか……という話ではありますが、一方で現場の大学図書館員たちは、突然、大量の雑誌論文登録作業に直面することになりました。なにせそれまで「灰色文献でも入れておけば?」と言われていた(かなり根に持っています)ような英国の機関リポジトリですから、REF2021に向けた大量の論文登録に対応する体制などあるはずもなかったわけです。そこからどうやって大量の(年数千というような)登録に対応していったのか、どんな困難に直面したのか、ということを、12大学・13人の図書館員にインタビューしました……というのが今回紹介する論文の内容です。以下、インタビュー結果のまとめに従って概要を見ていきましょう。


5.1 インフラとワークフロー

 調査対象大学のほとんどはCRIS(研究情報システム)を導入していて、そこから機関リポジトリへ自動登録するツールを作っているところもありました。そもそもREF2021の対象になるもの等もCRISで管理しているので、研究者はとにかくCRISとかかわる、ということになります。CRISのみで研究者の作業が完結するよう気を遣っているという話もありました。

 実際の成果の登録方法ですが、これは佐藤としては意外でもあったのですが、大半は研究者自身の登録に依存していて、図書館員が仲介したりする、というのはわずか3大学でした。一つにはREF2021の要件、「受理から3カ月以内」というのが大きく、論文データベース等に掲載されたものを図書館員が探して登録する……というワークフローは原則、使えなくなります(公開される頃にはとっくに受理から3カ月を過ぎていることが少なくないので)。補助的にそのワークフローを採用している大学もあったそうですが、基本的には受理の通知を受け取り次第、研究者に論文を登録してもらう必要がある。そこでごちゃごちゃ「こんなやり方もあります」と紹介するとかえって研究者が混乱する・やらないと考えられるので、「とにかく受理されたら機関リポジトリに登録してください。あとは図書館員がよろしくやります」というメッセージを出すのが大事、という話でした。参考になりますね。


 そしてそれまで低調だった英国の機関リポジトリに、急に大量の論文が押し寄せてきたわけですが、これにどう対応したのか。英国の機関リポジトリの大半はE-PrintsやDSpaceといった、サーバを自力で構築して運用しているものなので、容量の増強等がまず必要になったそうです。ここはJAIRO Cloud主流の日本の場合は少し状況が違いそうな。一方、人員配置の変換も当然必要になり、ほぼすべての大学が1~5FTE、人員を増強したとのことでした。新規採用なしで乗り切ったのは1大学だけで、逆に16人もの大増強に踏み切った大学もあったとか。人手を増やしてもなお大変だったとの話もありますが、REF2021のオープンアクセス方針という大義があったおかげで、人員増強の理解は得られた、という話もありました。


5.2 アウトリーチ

 図書館は論文登録を待つだけでなく、学内の多数の部署にアウトリーチを仕掛け、何をしなければいけないのか等を伝えていく必要がありました。

 そこでまず大事だったのは「早期に始める」ことで、それによって研究者が早めにワークフローに慣れる、というだけではなく、研究者たちが自分たちで勝手にオープンアクセス方針を解釈し、誤解が広まることを防ぐことにもつながる、ということです。後者の点も日本でも参考になりますね、G7のオープンアクセスに関する話を受けただけで、X(旧Twitter)上で(ゴールドOAによる義務化なんて一言も言っていないのに)「そんなお金はない!」みたいに盛り上がる研究者もいましたし。その他、部局との連携や直接的な研究者への広報等については、まあそうでしょうねという感じの話なので割愛。


5.3 コンプライアンス

 コンプライアンス(REF2021への)について、図書館はコンプライアンスを守らせる立場に立つのではなく、知らせる立場に立つ、という話は参考になります。REF2021に従うよう、研究者に強制するのは大学の経営層や部局の役割であって、図書館は「こういう決まりに従わないといけないよ」と知らせる、だけの立場である、と。コンプライアンスチェックまでやる人員はいない、というのもありますし、そもそもそこは経営層等の仕事でしょというういのはその通りです。ただ、コンプライアンスに従っているかチェックできるツール、ダッシュボードの用意等は必要であったということです。


 また、REF2021には実は色々と例外もある(例えば全業績の5%はオープンアクセス方針に従ってなくても許される)のですが、その情報は研究者には伏せる、少なくとも大々的に広報しない、という話もありました。どうしても対応できない場合のバッファーとして取っておくためというのが主目的だそうですが、なんでも全部正直に伝えるべきかどうかは、経営層とよく話し合っておこう、ということですね。


5.4 「にんじんと棒」

 その他、色々とトピックもありますが、一つポイントになるのはタイトルにもなっている「にんじんと棒」の話。「にんじん」は馬の前にぶら下げるにんじん、「棒」は馬をひっぱたいて進ませる棒状の鞭を指し、いわゆる「飴と鞭」にあたる成語なわけですが、その例えで言うとREF2021はにんじんではなく、棒でした。大学等は追加の何かをぶら下げられたわけではなく、REF2021で評価してもらえない⇒研究経費が減額される、という棒でひっぱたかれて、オープンアクセスを推進したわけです。その点についてこの論文の著者はかなり問題視していますが、とはいえそれでもオープンアクセスが劇的に進んだのは確かであり、これから米国でもオープンアクセス義務化が進んでいく中で参考になりそうだ……と結んでいます。


 日本の場合も、今後どう話が転んでいくかはわかりませんが、オープンアクセス雑誌のAPCAPCを十分に援助できる予算がどこから湧いてくるんだと考えると、機関リポジトリがオープンアクセス実現手段として再び脚光を浴びる可能性は十分ありそうです。その事態に直面した図書館がどう対応しうるのか、そのヒント・エッセンスがこの論文にはいっぱい詰まっていそうでもあり、これからたびたび、参照されていくことになるのではないでしょうか?


 ……ただまあ、図書館現場の大変な苦労があったとはいえ、機関リポジトリでもオープンアクセスって実現できるんだなっていうのは、ちょっと勇気が出る話ですね(?)


佐藤翔(同志社大学)

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