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test/Open Repositories 2023 の旅

■はじめに

 2023年6月12日~15日に南アフリカ共和国で開催されたOpen Repositories 2023に参加しました。この会議はリポジトリのシステム面と運用に関わるコミュニティ面の両面から学術情報流通の発展を考える会議です。今回は41カ国から約300名の参加がありました。この場をお借りして、参加して考えたことを皆様にお伝えしたいと思います。まずは本題の会議から、最も印象に残った発表をご紹介します。


■ハーバード流のアプローチ

 ハーバード大学IT部門からの発表は大いに頷けるものでした(参考1)。内容としてはリポジトリの刷新についてで、日本でいうところのシステム更新に似た状況でしょうか。注目すべきはそのアプローチです。

 まず現状の課題を整理し目的を設定します。つぎに、取りうる手段を場合分けし、それぞれの利点・欠点を洗い出します。かなり基本的なことですが、昨今、手段が目的化してしまうケースがしばしばみられますので、非常に印象に残りました。たとえば、オープンアクセスを推進することを目的としたとき、リポジトリはオープンアクセスを実現するための一手段でしかありませんよね。この点、大学図書館にいるとどうでしょうか。リポジトリの維持が目的化していないでしょうか。

 そのほか本講演では、タスクの自動化・バックグラウンド化による職員の負担軽減、ワークフローの改善のためのフィードバック機能の構築など、日本で持続的・発展的にリポジトリを運用していくうえで参考になるアプローチが多数紹介されました。テクニカルな課題へのアプローチとともに、大学内での予算獲得から執行部等のステークホルダーとの協働など、ソフト面の課題に対するアプローチについても紹介されており、この講演資料自体が「リポジトリ更新の手引き」としてのパッケージ的機能を持っているとも言えそうです。


■日本はどう映るのか

 私の出番は、リポジトリとそのコミュニティに関するパネルディスカッションでした(参考2)。開始冒頭に、パネリスト4名が10分程度の短い講演を行い、その後は会場を巻き込んでディスカッションを行うというものでした。私の講演では、NIIとJPCOARによるJAIRO Cloudの共同運用について紹介しました。特にJPCOARのコミュニティにフォーカスして説明を行いました。加えて、日本の図書館員を語るうえで外せない「人事異動(ジョブ・ローテーション)」について特に丁寧に説明しました。

筆者の発表の様子


異動によって人材が強制的に流動している点を抜きに、リポジトリの運用を語ることはできないからです。この点は参加者から大変興味を持たれました。「2~3年のジョブ・ローテーションの中で、どうやって定常的にリポジトリを運用しているのか?」、「マネージャー(管理職)も移動があるのか?」など質問が相次ぎました。やはり海外の方々には、リポジトリの運用やコミュニティの云々以上に、日本の特異な背景文化が珍しく感じられるようです。結局、終わってみるとパネルディスカッションのうち多くの質問は、日本についてのものでした。

 日本と世界で共通の悩みもありました。それはオープンアクセス、オープンデータに関して、どのように研究者を巻き込んでいくか、という点です。欧米やアフリカでも同様の課題意識を持っており、これについては画期的な解決案というのはなく、なるべく研究者と図書館が密にコミュニケーションをとっていくことが必要だとの結論に落ち着きました。

 日本からはオープンサイエンス基盤研究センターから大波純一氏と河合将志氏がそれぞれ発表を行いました。


大波氏(オープンサイエンス基盤研究センター)の発表の様子


河合氏(オープンサイエンス基盤研究センター)の発表の様子


詳細は次のリンクからご覧いただけます。


■Cape Town

 最後に皆さんお待ちかねの(?)ケープタウンという街について書いておきたいと思います。私が滞在したのはケープタウンの中心街から東に20kmほどのSomerset Westという地区で、少し北にStellenboschというワイナリー地区がある場所です。今回のOpen Repositories 2023のホスト校であるStellenbosch Universityがあるところです。この辺りはなだらかな丘がすーっと海へ続いている場所で、朝起きると丘を下った先にインド洋とも大西洋ともいえぬ青い海原が広がっていました。

 今回の出張は正味3日の滞在に対して、飛行機の移動が3日というものでした。そのため、最終日半日だけ滑り込みでケープタウンの街と喜望峰を周遊してきました。


喜望峰から大西洋を望む


ウォーターフロントと呼ばれるエリアは、警備がしっかりしており、安全に楽しむことができます。喜望峰へはバスツアーを利用しました。Cape pointと呼ばれる喜望峰より少し内陸から、喜望峰まで40分程度歩いて下ることができます。私が訪れたときは野生のダチョウが道をふさいでおり、人間側がフットパスの外を迂回しました。喜望峰に着いたとき、海に二重の虹がかかり、バスツアーのみんなと大喜びでした。その後、テーブルマウンテンと呼ばれるケープタウンを象徴する山裾を通り、市街中心部に戻ることで私の周遊は終わりとなりました。ケープタウンは予想していたよりもとてもきれいな街で6月のケープタウンは朝晩少し肌寒く、札幌出身の私にとっては大変過ごしやすかったです。また、牡蠣をはじめとする海産物のおいしさには目を見張るものがありました。


■フライト

 2023年6月時点でのフライト情報を記録しておきます。深夜1時に羽田を出発し、朝6時にドバイ着。温度計が40度を示す中、タラップでケープタウン行きに乗り換えます。9時にドバイを出て、ケープタウン着は夕方17時でした。フライトは片道20時間で、家を出てから宿まで24時間の旅でした。飛行機好きの私ですが、さすがに遠かったです!これだけかけてやってきた地球の裏側ですので、もう少し滞在できたらよかったなぁと思います(出張ですので贅沢を言えませんが)。


■海外出張の機会はどこに?

 JPCOARでは海外の動向について情報収集をしたり、日本の事例を紹介したりするため、年に数回、海外の会議への参加者を募集しています。会員機関全体にメールでアナウンスするということは少なく、JPCOARの作業部会員やタスクフォースの方々にご案内をすることが多いです。そのため、海外での会議参加にご興味のある方は、ぜひJPCOARの作業部会、あるいはタスクフォースにご参加いただき、募集情報に目を光らせていただければと思います。会議の例として、Open Repositoriesの他に、COAR Annual Meeting、IFLA Congress、International Digital Curation Conference、Open Science Conferenceなど、沢山のチャンスがあります。


■おわりに

 最後に、海外へ行く意味について考えてみたいと思います。私なりの答えは、「自分(日本)の位置を知るため」です。日本には井の中の蛙という言葉がありますが、自分から見えている世界がすべてだと思うことは、ありがちなことです。一方で、実は自分の井戸の外にも世界は広がっています。そういう意味で「別の井戸」を訪れ、そこから自分の井戸を眺めてみることで初めて「自分の位置を知る」ことができます。また、比較するものがあると、それぞれの良いところ、改善すべきところを知ることができます。このことが発展を生むのだと思います。

 そういった意味では、会議参加による情報収集や議論も重要ですが、お互いの「ちがい」を生み出すバックグラウンドである「文化」にも注目したいものです。それは街の空気感であったり、ちょっとした路上での一コマであったり、現地の人との会話であったり、小さなところでも感じることができると思います。ぜひ日本を外から見てみてはいかがでしょうか。


前田隼(国立情報学研究所 図書館連携・協力室)


参考1

Cossu, Stefano. (2023, June 13). A Generational Refresh: Continuing Harvard's Digital Repository Service legacy of innovation. Open Repositories 2023 (OR2023), Stellenbosch, South Africa. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.8091531


参考2

Maeda, Jun. (2023, June 14). JAPAN model: JPCOAR's Community Development and Current Challenges for Open Access / Open Science. Open Repositories 2023 (OR2023), Stellenbosch, South Africa. Zenodo. https://doi.org/10.5281/zenodo.8093904

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