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Report

18th International Digital Curation Conference 参加報告 / OA義務化等に関するスコットランドの大学へのインタビュー調査報告

有馬 良一

24/4/26

神戸大学

 英国はスコットランドの首都エディンバラで2024年2月19日(月)~21日(水)にかけて開催されたDigital Curation Centre (DCC) 主催の国際会議 18th International Digital Curation Conference (IDCC24) に参加するとともに、スコットランドに所在するエディンバラ大学、グラスゴー大学、ストラスクライド大学の図書館職員に対し、オープンアクセス (OA) 義務化への対応や研究データの管理等についてのインタビューを行いましたのでその報告を行います。


18th International Digital Curation Conference

 18回目の開催となるIDCC24は、19日のWorkshop Day及び20日と21日のConference Dayの2部制であり、後者については初の完全ハイブリッド形式として開催されました。公式が利用を推奨するイベント管理アプリWhovaの名簿によると全体で270名を超える参加者があったようです。また、今会議のテーマは「Trust Through Transparency(透明性による信頼)」ということで、データやデータリポジトリの「信頼性」に重きを置いた発表が多く行われました。スペースの都合上、ここでは参加したプログラムのうちの一部のみを紹介します。


 まず19日に開催されたワークショップの前半ではmaDMPsの10原則の各項目について、現在の原則が「適切か / 現実的でないか / 不足があるか」の3段階で評価するというディスカッションが行われました。国や組織によって実現性の難易度には差があるなど問題点は出されたものの基本的に現在の原則は原則として適切であるとの結論が出ていました。また後半ではDMP (Data Management Plan) プラットフォームとRDM (Research Data Management) プラットフォームをつなぐ、ということをテーマに各種のステークホルダーの視点からユーザーストーリーを作成する、という内容のグループディスカッションが行われ、様々な立場による多様なユーザーストーリーが作成されました。


ワークショップ休憩時の風景。 50人以上の参加があった。

 本会議の発表のなかからは、今後の日本の政策にも類似しているように思えたストックホルム大学の発表を取り上げます。スウェーデン政府は公的資金による研究成果のOA化を2021年までに、研究データについては2026年までにFAIR原則に則ったかたちでオープン化することを求めているようですが、ストックホルム大学で行った調査の結果によるとアットランダムに選んだ研究成果のうち根拠データについて少なくとも何らかの言及を行っていたのは39%程度で、このうちDOI付きでリポジトリに登録されていたのは10%ほどに過ぎなかったようです。中には補足資料のなかに研究データが含まれているものもあったとのことでした。これを踏まえて、当該発表では研究成果のより適切なオープン化を進めるために、大学はもっと研究者に情報を提供するとともに適切なデータキュレーションサービスを提供する必要があり、研究者はデータを補足資料に載せずに区別して扱うとともにDOIをもっと使用するべきだと提言しています。また出版社に対しても適切な根拠データと補足資料の扱い方を研究者に伝えるとともにDOIの付与についても推奨すべきだとしています。筆者自身も論文の根拠データについての十分な知識がないため混乱することも多いのですが、2025年からの即時OA義務化に向けてこのあたりの動きもフォローして参照していければと思っています。


 なお、今回聞けなかった/報告できなかったものも含めた全発表の抄録がIDCC24のWebサイト「Accepted Submissions」からご覧いただけます。また一部の発表資料はZenodo上に公開されておりますので、興味のある方はこちらもぜひご覧ください。


ランチタイム兼ポスターセッションの様子。

OA業務等に関するインタビュー

 以下では今回行った調査のうちOA義務化に対するものを特に抜粋して記載します。なお、上記調査はいずれも佐桑諒氏(神戸大学)とともに行ったものです。


 エディンバラ大学は、UKRI(英国研究・イノベーション機構) によるOA義務化をきっかけに学内の弁護士や学術コミュニケーションチームと協働して方針を策定し、弁護士による文書を出版社に通達して同制度を開始したとのことです。現在はPureという研究情報システム(Current Research Information System: CRIS)にCC BYのライセンスを付与した原稿の提出を教員に依頼しており、その結果OA率は92%ほどになった、ということで権利保持方針はうまくいっている、という認識を持っているようでした。


 グラスゴー大学のOA義務化の始まりはUKRIによるOA義務化以前に英国の旧ビジネス・イノベーション・スキル省からOA推進の依頼があったことに端を発しており、その際に業務のワークフローもOA義務化に対応できる体制に変更したとのことでした。また同校は他の2校と異なり、教員がCRISに直接記載するのではなく、論文がアクセプトされたタイミングで図書館にメールを送るように依頼しているとのことでした。これは同校がeuroCRISに参加するとともに、非営利のCRISを使用していることが要因ということです。


 ストラスクライド大学への訪問調査は諸事情により行えませんでしたが、メールでやり取りをしたところによるとエディンバラ大学と同じくPureへの研究成果の登録を教員に義務付けており、教員がPureに登録した論文がそのまま機関リポジトリ(IR)に流れる仕組みとなっているようです。なお、OA義務化にあたってはPureとIRをつなぐコネクタの開発を行ったとのことで、この取り組みはうまくいっているが、研究者のインパクトファクターへのこだわりやワークフローの複雑化による理解不足を払拭しきれていない、との課題も挙げられていました。


 3大学に共通した点としては、即時OAや権利保持戦略は現状うまくいっているとの声が聞かれたものの、UKRI等によるブロックグラント(助成)はすべてAPCの支払いやRead & Publish契約の費用に使われており、今後APCの値上げやADCのような仕組みが出てきた際の対応は今後の課題となっているように感じました。また研究者が行う論文の登録フローは比較的簡便なため基本的には好評であるとのことでしたが、その一方でOA化のための様々な助成金があるため、その点がやや煩雑になっているとの意見も聞かれました。


おわりに という名の雑談

 初の国際会議は、記念すべき32歳の誕生日に家を出て成田・ドーハ経由でエディンバラに着くまで36時間、機内でもホテルでもなかなか寝付けないハードな旅となりました。

 国際会議はワークショップ以外基本的に発表を聞くだけなのだろうと思っていたのですが、ランチタイムやコーヒーブレイクなどフリータイムが多く、如何にほかの参加者とコミュニケーションを取って関係性を築いていくかが重要なのだな、と身をもって感じました。またデジタル・キュレーションというこれまで業務で行ったことのない分野の会議でしたので、これまで意識してないことを意識したり、知識不足をいつも以上に痛感したりするいい機会となりました。この経験を今後に活かしていければなと思っています。

 最終日は早朝に起きて、一人「Arthur’s Seat(アーサー王の王座)」に登りました。自然豊かで素敵な場所でしたが、ばっちり花粉症チックな症状が出て、帰りのフライトもまた厳しいものとなりました。


Arthur’s Seatからエディンバラ市街を見下ろす。

 


文:有馬良一( 神戸大学 )
ガードレールが夏みかん色の県出身。京都で学生生活を送った後、2014年神戸大学附属図書館に入職。
サービス担当→リテラシー担当→システム担当と異動して、2022年10月から現職の電子図書館担当となり、翌4月からJPCOARの作業部会員に。イノシシは見るより食べる機会のほうが多い。

 

本記事は クリエイティブ・コモンズ 表示 4.0 ライセンスの下に提供されています。
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