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汗と涙のJPCOAR新ロゴ誕生悲話

山下 真人 / 永井 一樹

24/2/29

兵庫教育大学 / 兵庫教育大学

2023年6月にJPCOARの新ロゴマークが決定しました。

鳥かごの上に一羽の鳥。このシンプルなモノクロのデザインを考案したのは、兵庫教育大学の山下真人さんです。ロゴに込めたメッセージや制作の舞台裏について伺いました。

聞き手:永井一樹(兵庫教育大学 / JPCOAR広報・普及作業部会)




あなたは、大学図書館界のジョージですよ



N|この度は、JPCOARの新ロゴ採用、おめでとうございます。


Y|ありがとうございます。


N|今の率直なお気持ちをお聞かせください。


Y|いや、そりゃ、うれしいです。



ロゴ作成者の山下真人氏(右)


N|去年6月の国立大学図書館協会総会で、新ロゴがお披露目されたとき、会場で山下さんの名前が高らかに呼ばれましたよね。


Y|一橋講堂で、自分の名前が紹介されるなんて、こんな名誉なことはないと思っています。


N|しかし、なぜ山下さんの名前しか紹介されなかったんでしょう。


Y|と言いますと?


N|いや、私だって、今回のロゴのコンセプト・メイキングでは結構貢献したと思うんですけど。


Y|この期に及んで、著作権の主張ですか。勘弁してください。


N|漫才で大賞を取ったのに、授賞式に相方しか出てなかったら、おかしいと思うでしょう。


Y|何言ってるんですか。僕が素人ながら、日々デザインに苦闘している脇から、あーだこーだ口を挟んできただけじゃないですか。


N|僕は、ツッコミ担当ですから。ところで、あなた、「おさるのジョージ」っていうアニメ知ってます?


Y|はい。というか、熱烈なファンです。


N|はっきり言って、あなたは、大学図書館界のジョージですよ。


Y|どういうことでしょう。


N|説明します。ジョージはおさるですね。でも、人間の社会に生きている。


Y|はい。それは知ってます。


N|つまり、人間にとって、ジョージは「エイリアン」なわけです。


Y|はい、まあ。


N|だけど、ジョージは人間の真似をするのが大好きですよね。つまり、我々は、人間の真似をする「エイリアン」を通じて、人間というものを見せられている。メタなんですよ、構造が。


Y|よくわかりませんけど、それでなぜ僕がジョージなんでしょう?


N|つまり、大学図書館の外側(エイリアン)から、大学図書館を見ることができるのが、山下さんなんです。


Y|ああ、なるほど。僕は図書館採用ではないですからね。図書館に来て、まだ3年です。


N|NIIが何の略か最近知りましたもんね。


Y|NIIは国立情報学研究所の略称です。





N|ロゴマークなどの、いわゆるCI(コーポレート・アイデンティティ)を作る上で必要になるのが、多分対象に関する適度な無知とそれ故の純粋な好奇心、そして観察力や想像力。つまり、ジョージのような資質だと思うんです。


Y|なるほど。僕が毎日のように子どもに読み聞かせしている元祖おさるのジョージこと『ひとまねこざる』の締めくくりはこうなんです。「…かわいい こざるでしたが、ただひとつ、こまったことが ありました。それは、とても しりたがりやだったことです…」[1]。


N|よく覚えてますね。そうなんです、知的好奇心が半端ないんですよ。


Y|確かに、このロゴマークを作る前、永井さんにJPCOARのことやオープンアクセスのこと、根掘り葉掘り聞いてましたもんね、好奇心に駆られて。


N|そうですよ、まあまあ忙しいのに。ちなみに、山下さんがジョージだとすると、僕は黄色い帽子のおじさんですよね。


Y|ほう。


N|黄色い帽子のおじさんはね、ジョージが家中散らかしたり、どんな騒動を起こしても絶対に怒らないでしょ。イラストレーターで仏像マニアのみうらじゅんが言ってましたけど、あれは黄色ではなくて金色なんだと、つまり黄色い帽子のおじさんは「無怒菩薩」だと[2]。ジョージのようなエイリアンを扱うには、本当に仏のような忍耐と寛容の心がないとやっていけません。山下さんにおいて“をや”です。


Y|さぞ、ご苦労をされたんですね(泣)。


N|それなのに…。


Y|国立大学図書館協会総会で名前を呼ばれなかった。


N|そう。運営委員長に自分の名前を呼んでもらえなかったのが、残念で悲しくて。


Y|これ、一体何のインタビューなんですか。「ロゴ誕生悲話」って、永井さんの悲話になってる。


N|ああ、すいません。あと何か…言い残したこととかありますか?


Y|JPCOARのロゴの話、全然してませんけど。


N|では、どうぞ。






一番の変化球は、ストレート


Y|ありがとうございます。あれはね。暑い夏のことでした。永井さんもご存じのように、実は採用いただいたものとは別にもう一案作りましてね、故障してクーラーの効かない事務室で汗だくになって。


N|僕の推しだったやつね。


Y|そうなんですよ。これには相当愛情と時間をかけましてね。


N|ローマ字の「JP」とカタカナの「コア」を同時表現するという遊び心がよかったと思います。


Y|そうですね。いろんな意見はあると思うんですが、広く一般の人が、まず何をする団体なのかがわかることが重要だと、朝の妻との会議で訥々と語られた結果・・・却下でした。



N|確かになんの団体かさっぱりわからないですね。そのシュールさに逆に僕は惹かれましたけどね。秘密結社みたいな。


Y|確かにね。私も情報をそぎ落としたミニマルな感じも大好きなんですが、オープンアクセスという概念をロゴで表現しなければと思いました。永井さんの大好きなあのロゴのようにね。リンゴの? えーと、ああイギリスのCOREだ。


N|ああ、COREはいいですよね。リンゴなんだけど、食べたあとに残る芯(Core)がモチーフになってるところがいい。だって、芯ってゴミじゃないですか。それをアイコンにしちゃう遊び心がいいんですよね。もちろん、遊びと共に、「知恵の実を食べ尽くせ」っていう真面目なメッセージも込められている。これはコミュニティではなく、サービス(日本で言うIRDB)のロゴですけど、イギリスのコミュニティって面白い人が一杯いるんだろうなというメタ情報が、この芯のシンプルなイメージから饒舌に伝わってくるんです。


Y|そうですね。「コア」のロゴでその遊び心は実現できたかなと思っていたんですが、単にロゴを見て何となくでもメッセージが伝わることが重要かと思いなおしました。いや~ロゴの奥深さを思い知らされました。


N|確かに、COREでいう「知恵の実を食べ尽くせ」という意味的なメッセージが、「コア」のロゴにはなかったですね。


Y|そうなんですよ。まずは伝えるべきことは伝えなければならないというロゴの鉄則を失念しておりました。それで鳥かご案を作った。そういえば、最初の案では鳥はおらず、鳥かごだけだったんですよね。もう鳥かごの鳥は羽ばたきましたよという。(今あらためて見るとスカスカで鳥羽ばたき放題ですね…(笑))




N|う~ん、でもちょっと遠かったですね。ロゴ認知の3秒ルールから逸脱していた。つまり、そのロゴを目にしてから3秒以内で、それが何を表しているかわからないとダメっていう、我々のローカル・ルール。別の言葉でいうと、詩的過ぎましたよね。かっこつけすぎと言えばいいか。


Y|結構ディスりますね(笑)。でもね。あまりに直接的すぎると、飽きるのも早くなるんですよね。その絶妙なバランスが必要だ...と、朝の会議で妻が言ってました(笑)


N|どんだけ妻頼みなんですか。ぱっと理解できるロゴでないといけないし、かといってわかりすぎると面白くないし。その微妙なさじ加減が問題なんですね。


Y|そうなんです。そこで、「論文」のメタファーとして鳥を登場させたわけです。


N|鳥が鳥籠の上に止まっている。これがこのロゴの肝ですね。


Y|そうですね。数あるメタファーの中から今回は鳥を選ばせていただきました。他には、鳥は鳥でも知恵の象徴のフクロウ、そして、シャボン玉なんかもありましたね。でも、いったん囲われているところから羽ばたくメタファーとしては純粋にただの鳥がいいのかなと思ったんです。


N|鳥は、かなりベタですけどね。


Y|永井さん。一番の変化球って何か知ってますか?


N|何ですか?


Y|…ストレートです!


N|(苦笑)





Y|ここはストレートでメッセージを表現しました。「論文を囲っていてはだめですよ」ってね。


N|やはり、囲い込みの「外側」というのがポイントですね。つまり、エイリアンです。


Y|そうですね。エイリアンといえば、僕の好きなキリンジの曲に「エイリアンズ」っていう名曲がありましてね。その歌詞がまた秀逸なんですよ。恋人どうしの恋心を僕らがエイリアンだったら…って想像して書かれた詩なんです。この曲を聴いていると、地球人である自分の置かれた場所や価値観って、まさに捕らわれた檻だなって思うんですよ。


N|なるほど。それでいうと、僕の好きな太宰治の小説に『女生徒』っていうのがありましてね。


Y|お得意の太宰治ですか。


N|主人公の女生徒の何気ない日常が一人称で綴られているんですが、家路に向かう描写があるんですよ。歩き慣れた道なんだけど、自分がそこに初めて訪れた人になりきって歩いてみるんです。つまりエイリアンになって、自分の住み慣れた環境を見つめるという視点です。その描写がすごくヴィヴィッドで面白い。


Y|いいですね。


N|昨年、リポジトリ新任担当者研修の場で久しぶりに杉田茂樹運営委員長や鈴木雅子運営委員の発表を聞いたのですが、すごく面白かったんです。10数年前から同じような話を聞いてるんですけど、相変わらず新鮮で面白い。それはなぜかと考えると、お二人にとっては歩き慣れた道なのに、いつもそれが初めてであるかのように歩いているからなんだと思ったんです。この、同じ場所に居続けながら「異邦性」を保つことって、簡単そうですごく難しいことだと思うんですよね。

 

Y|なるほど。

 

N|だから、ロゴの鳥は論文のメタファーということですけど、もうひとつJPCOARに参加するひとりひとりが、こういうエイリアン的視点を持とう!という隠れたメッセージが込められていたらいいなと個人的には思いました。


Y|そうですね。オープンアクセスは論文やデータをできるだけオープンにしていくことだと思うんですが、そのことは、オープンアクセスに限らずどんなことにも言えることですよね。エイリアンとか、異邦人になりきって、外に出ることで、ありふれた日常が、違って見えること、新鮮に見えることって素晴らしいことだと思います。絵本版の『おさるのジョージ』もまさにそうでね。ジョージってジャングルから連れてこられて動物園の檻の中にいるんですよ。そこから逃げ出して黄色い帽子のおじさんと出会うんです。

 

N|確かにアニメの主題歌も、「いろんなこと やってみようよ / 分からないこと なんでも聞いてみよう」[3]って、これJPCOARコミュニティそのものですよね。


Y|で、その後に「きっとすばらしいことが ほら まってる!」と来る。


N|オープンアクセスの未来はきっと明るいですね!


Y|おしまい



 

[1]H.A.レイ. ひとまねこざる. 光吉夏弥訳. 岩波書店, 1983

[2]みうらじゅん. 黄色い帽子のひみつ(みうらさん、どうしてこうなるだジュか。第2回). ほぼ日刊イトイ新聞.  https://www.1101.com/n/s/jun/fes_tokorozawa/2023-04-28.html

[3]岩崎良美とモンキーブラザーズ. 好奇心いっぱいのジョージ(原曲 Curious George Theme Song. Universal Studios, c2009)





 


話し手:山下真人( 兵庫教育大学 )

1981年生まれ。2010年~兵庫教育大学教材文化資料館に展示スタッフとして採用され、展示企画等を行う。

2013年~大学広報など事務畑を耕す。2021年~附属図書館(3年目)

好きな映画監督:アンドレイ・タルコフスキー

https://www.kidahami.com/post/tookikoe_32






聞き手:永井一樹( 兵庫教育大学 )

1977年生まれ。大学時代に太宰治に傾倒したせいか、友達ができず、図書館引きこもりに。社会人になっても引きこもりを続けるべく、公共図書館等をハシゴした後、2003年に兵庫教育大学附属図書館に就職。以後約20年以上同館で引きこもりを継続してきたが、さすがに外の空気が吸いたくなり、最近BLUE CLASSという屋外ラーニングコモンズ計画を進行中。



 

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