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Interview

杉田茂樹氏(JPCOAR運営委員会委員長)インタビュー 第2話

外国のリポジトリの実像が我々には見えてないような気がする

杉田 茂樹 / 野中 雄司

24/1/23

京都大学 / 富山大学

杉田茂樹=JPCOAR運営委員長 と 野中雄司=JPCOAR広報・普及作業部会主査 のインタビュー第2話。

機関リポジトリの普及はひとつの達成である一方、出版社の掌の上だということを感じた(第1話)-と話す杉田委員長。話題はオープンアクセスの理念・歴史から、大学図書館の役割、国際化へと移っていきます。


利用者ってさぁ、来ないじゃん


N|先ほど、科学の進歩に役立つことをするのが大学図書館の仕事だというお話がありました。僕にはちょっと新鮮だったんですけど、それはいつ頃から思っていたのでしょうか。就職前から漠然と思っていたのか、就職して時間が経ってから、そう思ったのか。 S|もちろん後者です(笑)。でも、なんでそんなこと思うようになったんだろうね。 N|いつ頃からですか。 S|わかんない(笑)。なんだろう、利用者のため利用者のためって、みんなが言うのが理解できなかったんだよね。利用者ってさ、来ないじゃん。学生、何千人もいるけど、その何割かしか図書館に来ない。 N|確かにそうですね。 S|昔は雑誌の最新号が出るたびに、教員はその目次を見に図書館に来てたけど、今ほとんど来ないじゃない。で、たまたま図書館に入館してくれる、一部の人だけをえこひいきしてちゃダメだと思ったんだよね。だから、「図書館は来館利用者のためにあるのではない」というふうに考えたわけだけど、じゃあ何のためにあるのかというと、構成員みんなのためにあるんだと。そうやってターゲットを広げていくと、究極的には大学というのは科学の進歩のためにあるんだな、だから我々は科学の進歩のための仕事をしなければいけないのだなと、まあ半ば無理矢理やりこじつけていったんだと思います(笑)。 N|なるほど。で、科学の進歩によって、世界平和や人類の幸福に向かうと。 S|はい。 N|でも、世界平和への道のりは長いというか永遠というか。知識へのアクセスの自由を求めるオープンアクセスはそれを保障するための基本的な大事なことかなと思うのですが、なかなかうまくいかないところもありますね。


杉田茂樹氏

N|そういえば、本日記録をとってくれている兵庫教育大学(JPCOAR広報・普及作業部会)の永井さんが、以前戦争とオープンアクセスとを関連付けて話していたことがありました。これまでオープンアクセスの仕事は商業主義への対抗とだけ捉えていたけど、戦争とか民主主義を脅かす力への対抗という、別の大きな物語があることに気づかされたと。そのきっかけになったのが、岡部先生、佐藤先生、逸村先生が書かれたBOAIの思想的背景についての論文[1]だったそうです。このなかで思想的背景として紹介されている本[2]、えっと、なんてタイトルか忘れてしまいましたが(笑)、その本は当時のナチス・ドイツとソ連の「全体主義」に向けて書かれたものだったそうです。正直何言っているのか半分わからなかったけど(笑)、そんな思想的背景もあるんだなぁ、と思ってしまいました。 N(永井)|『開かれた社会とその敵』です。去年、岩波文庫から新訳が出ました。 S|そうだね。ただ、それとは反対の議論もあってね。反対というか、ちょっと別の観点だけど、昔、オープンアクセスはコミュニズムであるという論もありました。自由に研究者が研究をして、自由に投稿先を選んで、というのではなく、出来上がった研究成果をパブリックなところでみんなの共有物にするというのは「科学の共産主義化」であるというふうな批判があった。オープンアクセスの歴史の、もう一番最初の頃ね。 N|共産主義(全体主義)に対抗する手段としてのオープンアクセスという見方がある一方で、オープンアクセスが共産主義そのものであるという意見もある。難しいですね。 S|一方、そのあと研究助成機関がジャーナル出版に手を染めるケースも出てきて、「それって国家社会主義の民業圧迫なんじゃないの?」と、当時Research Works Act法案[3]を推していたエルゼビアこそ自由主義陣営の旗手だ!と応援したい気持ちにもなったね。


Daniel Mietchen, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

N|なるほど。 S|ほら、また硬くなってきた(笑)。 N|話題を変えましょうか(笑)。



大本営発表ばっかりなんだよ、お互い。


N|杉田さんはかつてCOAR(国際オープンアクセスリポジトリ連合)の副議長を務められていましたよね。国際的な視野から、JPCOARについて思われるところはありますか。 S|外国のリポジトリの実像が我々には本当には見えてないような気がする。というのはね、“大本営発表”ばっかりなんだよ、お互い。こんな検討報告書が出ましたとか、こんな政策が出ましたとか、そういうニュースで我々は外国の動きを知るだけで、本当に一人一人のリポジトリ担当者が何を考えて、どんな毎日を送っているかというのを僕らは見えてないので、どこそこが面白いことをやってるとか、ここは真似するべきだとかいうことを知れてない気がするんだよね。もっともっと外国に出ていって、向こうの生身のリポジトリ・マネージャーと話をすべきだと思うし、交流すべきだと思います。ユネスコがこう言いましたとか、そんなの聞いてても、本当にどうやってるか分からないんじゃないかな、って思うんだよね。 N|海外のリポジトリ担当者との往復書簡みたいな記事コンテンツとか面白いかもしれませんね。 S|あー、そういうのできるといいね。でも、それも大本営発表になっちゃうかな…。 N|僕、語学ダメなんですけど、やっぱり語学できる人にどんどん出て行ってもらいたいですよね。僕も海外出張の経験はありますけど、まあはっきり言って、“ガキの使い”で話を聞いてくるだけだったり、せいぜい事前に作っていったプレゼンを喋るくらい。でもやっぱり、意思決定の場で意見を言うということが絶対に必要なんじゃないかと思うんです。そういうことができる人にぜひ託したいなと。日本の組織論的な考え方としては良くないかもしれないけど、僕はできる人がやればいい、属人化上等!と思ってまして。 S|うん、同じ人がずっと出なきゃダメだと思う。入れ替わり立ち代わりじゃ覚えてもらえないからね。 N|日本のジョブローテーションの考え方からは、理解されないのかもしれませんが、やっぱりコミュニケーションを取れる人が、長くそこで活躍できるというのがいいですよね。 S|僕、もしかしたら英語ペラペラだと思われてるかもしれないけど、そんなこと全然なくて喋れないのね。だから、野中さんが言ったことすごくよくわかる。ちゃんと英語がペラペラ喋れる人に安定的に外国との窓口になってほしいよね。で、たとえ英語ができなくても、交流を…あのさぁ、自動翻訳してくれるチャットっていつできるだろうか。もうできてるのかな。


 
[1]岡部 晋典, 佐藤 翔, 逸村 裕. Budapest Open Access Initiativeの思想的背景とその受容. 情報知識学会誌. 2011, 21(3) https://doi.org/10.2964/jsik.21-032
[2]カール・R.ポパー. 開かれた社会とその敵. 岩波書店, 2023
[3]The Research Works Act(Creative Commons Japan)https://creativecommons.jp/2012/02/02/the-research-works-act/

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第3話につづく



 


話し手:杉田 茂樹( 京都大学 )
1967年生まれ。1993年に北海道大学附属図書館入職。2005年から2009年にかけて北海道大学学術成果コレクション(HUSCAP)の設立に携わったのち流れ流れて現職。ウェブサイト:https://www.kidahami.com/post/yamoshichi_34




聞き手:野中 雄司(富山大学)
富山大学 学術推進部 学術コンテンツ課(附属図書館)。2001年北海道大学附属図書館採用、室蘭工業大学附属図書館への3年間の出向を含め16年間を北海道大学で過ごす。その後、東京大学附属図書館を経て現職。山も川も海も食べ物も素晴らしい富山を満喫中。


 

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